ムギの よるの さんぽみち
みおの いえの ねこ、ムギは、ちゃいろの しまもようの ねこです。
ひるまは ずっと ねています。まどの そばの ひなたで ねて、ソファの まんなかで ねて、おとうさんの セーターの うえでも ねています。
でも、よるに なると、ムギは どこかへ でかけて いきます。
だいどころの ちいさな まどから、ぴょんと とびおりて、にわの くらがりへ。そして、あさに なると、なにも なかった かおで、ごはんの おさらの まえに すわって いるのです。
「ムギ、よる、どこへ いってるの?」
みおが きいても、ムギは しっぽを いっかい ゆらす だけ。
その ばん、みおは パジャマの うえに カーディガンを はおって、げんかんで まって いました。かいちゅうでんとうも もちました。おかあさんには ないしょです。すこしだけ。ほんの すこしだけ。
ムギが、だいどころの まどから ぴょん。
みおも、げんかんから そうっと そとへ でました。
にわは、ひるまと ちがう においが しました。しめった つちの においと、どこかの いえの おふろの せっけんの におい。
ムギは、にわの すみの きの さくの、いっぽんだけ ゆるんだ いたの すきまを、するりと ぬけて いきました。
みおも、からだを よこに して、ぎゅっと とおりました。カーディガンの ボタンが、かちっと いたに あたりました。
さくの むこうは、となりの いえの うらにわです。
ムギは、うえきばちの あいだを、おとも たてずに あるいて いきます。ときどき とまって、うしろを ふりかえります。みおが ついて きて いるのを、しって いるみたいでした。
ひとつめに ついたのは、ふるい いどの ふたの うえでした。
ふたの うえには、ちいさな みずたまりが できて いて、そこに おつきさまが うつって いました。ムギは みずたまりを のぞきこんで、まえあしで ちょん、と さわりました。おつきさまが ゆらゆら ゆれて、また まるく なりました。
ムギは まんぞくそうに ひげを ぴんと させて、また あるきだしました。
ふたつめに ついたのは、まがりかどの いえの げんかんさきでした。
そこには、しろい おおきな いぬが ねそべって いました。としを とった いぬで、めの まわりの けが すこし きいろく なって います。
みおは どきっと しました。いぬと ねこは、なかが わるいと きいた ことが あったからです。
ところが ムギは、いぬの まえに すとんと すわりました。いぬは、おもそうに あたまを もちあげて、ムギの はなさきを、ふん、と かぎました。
それから、いぬは また あたまを まえあしの うえに のせました。ムギは いぬの おなかの よこに まるく なって、しばらく いっしょに めを つぶって いました。
まるで「こんばんは」「こんばんは」と、あいさつを して いるみたいでした。
いぬの くびわには、ちいさな ふだが さがって いて、「シロ」と かいて ありました。
みっつめに ついたのは、こうえんの すべりだいの いちばん うえでした。
ムギは かいだんを とんとんと のぼって、てっぺんに すわりました。みおも のぼりました。すべりだいの てっぺんは、ひるまより ずっと たかく かんじました。
そこから、まちが みえました。
みおの いえの やねが みえました。おかあさんの へやの あかりが、まだ ついて いました。とおくの えきを、さいごの でんしゃが ひかりの おびに なって はしって いきました。
ムギは、まちの ほうを じっと みて いました。
「ムギは、まいばん これを みに きて たの?」
ムギは こたえません。ただ、みおの ひざに、あたまを ごつん、と いっかい ぶつけました。
そのとき、みおの いえの あかりが、ぱちっと きえました。
「あ、おかあさん、ねちゃう」
みおと ムギは、すべりだいを いっしょに すべりおりました。しゅうーっ。ムギは とちゅうで とびおりて、さきに はしって いきました。
かえりみちは、きた みちと おなじです。すべりだいの したを とおって、まがりかどで シロに ちいさく てを ふって、いどの ふたの おつきさまを ちらっと のぞいて、さくの すきまを、からだを よこに して ぎゅっと。
げんかんの ドアを そうっと あけると、だいどころの まどから、ムギが さきに かえって きて いました。
ムギは ごはんの おさらの まえに すわって、なにも なかった かおで、みおを みあげました。
みおは わらいそうに なるのを がまんして、ベッドに もぐりこみました。カーディガンの ボタンに、さくの いたの ささくれが ひとつ、ひっかかって いました。
つぎの あさ。
「ムギ、ゆうべ どこへ いってたの?」と、おかあさんが ききました。
ムギは しっぽを いっかい ゆらしました。
みおも、しっぽは ないけれど、おしりを いっかい ゆらしました。
おかあさんは、ふしぎそうな かおを して いました。
読み終えて、どうでしたか