泣ける話・感動する話の短編集
1日1話、3分で読める短い物語。家族、恋愛、友情、動物、仕事、別れ。全230話を無料で読めます。
気分からさがす
新しい物語
四十五センチ
父は歩くのが速い。結婚式で一緒に歩くとき、一歩を四十五センチにしてくださいと、式場の人に言われた。
レシートのうら
母はいつも、レシートの裏に書き置きを残していく。高二の僕は、一度も返事を書いたことがない。
一万二千歩
柴犬のコテツとの散歩は、若いころ一万二千歩あった。台所のカレンダーには、十四年ぶんの歩数が書いてある。
カレンダーの「ス」
台所のカレンダーに、月に何回か「ス」とだけ書いてある。父はスーパーの特売の日だと言う。でも、その店は水曜が定休日だ。
新聞読んではります
小六の孫と一緒に、六十二歳で英検三級を受けることになった。筆記は受かった。問題は、英語で話す二次の面接だった。
代講、六日間
英語の先生が研修でいない六日間、三年二組の英語を、英語が大の苦手な五十五歳の数学教師が受け持つことになった。
うちの曹長
大学三年の夏、家賃三万八千円の六畳に、手のひらほどのクモが出た。調べると、ネットでは「軍曹」と呼ばれて崇められているらしい。
羽根つき
結婚して六十一日目の日曜の夜。餃子を羽根つきにするかどうかで、夫婦ははじめて本気でもめた。
合鍵、一本
スーパーの一角にある小さな合鍵屋。山がすり減って丸くなった古い鍵を一本持って、七十代の女性がやってきた。
鮭をくわえた熊
親友が新婚旅行で買ってきた木彫りの熊。「いらん」と言ったあの日から二十二年、熊は二人の家を黙って行ったり来たりしている。
家の電話を解約する日
昭和四十三年から五十八年使った家の電話を、やめることにした。回線が止まる正午の前に、七十九歳はスマホでその番号を押してみた。
燻製の本のあいだ
図書館の「ご自由にお持ちください」の棚でもらった燻製の入門書。ページのあいだに、知らない二人のメモが九枚挟まっていた。
父の豆知識は九割うそ
父の言う豆知識は、だいたい嘘だ。大学入試の朝、会場まで車で送ってくれた父が、降りる直前にまた何か言い出した。
二年三組の時計
中学二年三組の学級日誌。日直が毎日一行ずつ書き、担任が赤ペンで返事をする。十月のあるページから、教室の時計の話が始まった。
カツ丼二・五キロ
三十分で食べきればタダ、写真が壁に貼られる。体重五十二キロの高二が、商店街の定食屋のチャレンジメニューに挑んだ。
帰舎時刻
岩手から放たれた六羽のレース鳩。栃木の屋根の上で、六十八歳の男が帰りを待っている。
義実家メモ
結婚して最初の正月、夫の実家は大分の山の中。三日間で覚えた決まりごとを、妻はスマホのメモに書きためた。
一日四百十二円
仙台で一人暮らしを始めた十九歳の息子。その家計簿を、父は居間のタブレットで見てしまった。
百八十六段
長崎の実家の米屋を手伝うことになった。最初の配達先は、車の入らない坂の上。五キロの米を担いで階段を上る。
プール開放、十四日間
夏休みの小学校のプール開放。監視台の先生の前に、毎日水着で来て、一度も水に入らない二年生がいた。