創作家族約2分

一日四百十二円

タブレットは居間のテレビの横に立ててある。家族で一台だ。女房は料理の動画を見るし、俺は天気を見る。息子の拓真は四月に仙台へ行くまで、これでゲームの攻略ばかり見ていた。

日曜の朝、天気を見ようとしたら知らない画面が出た。表計算のアプリだった。拓真のアカウントがこっちに残っていて、向こうで書いたものがこっちにも出るらしい。仕組みはよくわからん。

題は「生活費 九月」。

閉じればいいものを閉じなかった。

家賃 38,000。これは知っている。俺が振り込んでいる。仕送りは月に五万で、バイトは駅前のドラッグストア、九月は61,200円と書いてあった。その下に食費の欄があって、毎日の金額が縦に並び、いちばん下に平均が出ていた。412円。

一日四百十二円で何が食えるのか、俺は知らない。

九月三日 158円、もやしと卵。四日 0円。五日も0円で、横に「まかない」とある。ドラッグストアにまかないはないだろうと思って下まで見たら、土日だけ居酒屋にも入っているらしかった。そんな話は聞いていない。

九月十二日 1,280円。横に「誕生日 自分に」。カッコの中に「ケンタ 2ピース」。

電話はしたのだ、十二日に。女房が先に十分しゃべって、代わった俺は「おう」と言った。向こうも「おう」と言った。それから「米あるか」と聞いて「ある」と言われて、二分くらいで切った。

シートはもう一枚あった。「貯金目標 ¥150,000 春休みまで」。理由の欄には「免許」とだけ書いてある。今の残高は47,300円だった。

俺が十九のとき、免許の金は親父が出した。礼を言った覚えはない。あれはいくらだったか。十八万か、いや、もっと安かったかもしれない。親父も覚えていないだろう。もう聞けないが。

女房が台所から「何見てるの」と言った。天気だと言った。

昼飯のあと、ホームセンターに行った。ほかに用はなかった。米売り場で十キロの袋を二つ持ち上げてみて、一つ棚に戻して、少ししてからまた取った。カートの底がたわんだ。

宅配のカウンターで伝票を書いた。宛先は女房のスマホを盗み見て覚えてきた。品名の欄で手が止まって、米、と書いた。ほかに何か書く欄があるかと探したが、なかった。

「ご依頼主様のお名前もお願いします」

カウンターの若い子が言った。

少し考えてから、依頼主の欄に久保田と書いた。下の名前は、女房のにしておいた。

#心温まる話 #大切な人に会いたくなる話

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