松の湯のお知らせ
町内の皆様へ
いつも松の湯をご利用いただき、ありがとうございます。
突然のお知らせで申し訳ありませんが、松の湯は今月三十一日をもって、閉めることになりました。ボイラーが寿命で、直すと三百万円かかると言われました。私も七十八になりましたので、ここらへんでと思います。
昭和三十六年に父が始めて、六十五年になります。
いくつかお願いと、お知らせがあります。
一、ロッカーに私物を置きっぱなしの方。十二番(黄色いタオル)、二十番(将棋の本)、三十一番(入れ歯洗浄剤。これは誰ですか)。三十日までに取りに来てください。
一、コーヒー牛乳の瓶は、最後の日まで百二十円です。値上げしないで終われて、よかったと思っています。
一、番台の横の「お客様の忘れ物」の箱に、子ども用のゴーグルが十一個あります。心当たりのある方、持っていってください。もう大きくなっていると思いますが。
一、男湯の富士山のペンキ絵は、三十年前に描き直したものです。描いてくれた絵師さんは亡くなりました。取り壊しの前に写真を撮りたい方は、三十一日の閉店後、二十二時から二十三時までどうぞ。
一、毎週水曜日に、いちばん風呂に来てくださっていた山内さん。先月から見かけませんが、お元気でしょうか。どなたか様子をご存じでしたら、番台まで。
最後に。
うちの湯は、いつも少し熱すぎると言われていました。四十四度です。父の代からそうです。ぬるくしてくれと何度も頼まれましたが、変えませんでした。すみません。
熱い湯につかって「あー」と声が出る、あの声を六十五年、番台で聞いてきました。
長いあいだ、ありがとうございました。
松の湯 店主 松本トシ子
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閉店の日の夜、張り紙の余白は、ボールペンの字で埋まっていた。
「熱いのがよかった」
「三十一番は俺だ。すまん。 田中」
「ゴーグル一個もらいました。息子はもう高校生です」
「小学生のとき、お金が足りなかった日に、おばちゃんが十円まけてくれた。ずっと言えなかった」
「富士山、撮りました」
張り紙のいちばん下、いちばん小さな字で、こう書いてあった。
「山内です。腰をやって入院していました。今日来られてよかった。四十四度、最後まで熱かった」
読み終えて、どうでしたか