半分のパン
小三のとき、隣の席の優斗は、給食のコッペパンを毎日持って帰った。
食べないのかと聞くと、「おなかいっぱい」と言った。ビニール袋に入れて、ランドセルにしまう。持ち帰ってもいい決まりだった。
僕はパンが好きだったので、「いらないならちょうだい」と言ったことがある。優斗は「だめ」と言った。すごく強い言い方だった。変なやつだと思った。
ある日の帰り、僕は優斗の後をつけた。どこにパンを持っていくのか知りたかった。探偵ごっこのつもりだった。
優斗は、線路沿いの古いアパートの一階に入っていった。窓から見えた。小さい女の子が二人、優斗に飛びついた。優斗はランドセルからパンを出して、半分にちぎって、二人に渡した。自分は食べずに、にこにこ見ていた。
僕は、何も見なかったことにして、走って帰った。探偵ごっこは、それでやめた。
次の日の給食、僕は自分のパンを半分ちぎって、優斗の机に置いた。
「なに」
「おなかいっぱい」
優斗は僕の顔をじっと見た。何か言いかけて、やめた。黙ってパンをビニール袋に入れた。
次の日も、その次の日も、僕はパンを半分置いた。優斗は何も聞かなかった。僕も何も言わなかった。二週間くらいしたら、クラスの何人かが同じことをしはじめた。誰が言い出したのかわからない。僕は誰にも言っていない。先生もたぶん気づいていたけど、何も言わなかった。
一回、給食でパンじゃなくて揚げパンが出た日があった。みんな揚げパンだけは譲らなかった。優斗も、その日だけは自分で全部食べた。口のまわりを砂糖だらけにして。
四年生の春、優斗は転校した。
二十年たって、インスタで優斗からDMが来た。
「覚えてる? パンのやつ。妹たちは二人とも保育士になった。今でもたまにあの話する。あと、あのとき後つけてきたの、気づいてた。ランドセルの金具がカチャカチャ鳴ってた」
気づかれていた。探偵失格だった。
「ありがとうって、ちゃんと言えなかった。ずっと言いたかった」
僕は返信した。
「揚げパンの日だけは譲らなかったよな、みんな」
既読がついて、しばらくして、「それな」と返ってきた。
読み終えて、どうでしたか