ファミチキ半分
正直に言うと、健斗がバスケ部をやめたとき、おれはちょっとほっとした。
同じポジションだったから。あいつがいなくなればスタメンに入れる。最低だと思うけど、最初に思ったのはそれだった。
やめた理由は、家の事情ってことになってた。親父さんの店がやばいらしい、とクラスのやつらが噂してた。本人は何も言わなかった。
三週間くらい、まともに話さなかった。避けてたわけじゃない。部活の時間がずれて、帰り道が一緒にならなくなっただけ。……いや、ちょっと避けてた。
ある日、練習の帰りにセブンに寄ったら、駐車場の車止めのブロックに健斗が座ってた。バイトの帰りらしくて、黒いエプロンを丸めて膝にのせてた。
「おう」
「おう」
それで終わりそうだったから、おれは店に入ってファミチキを買った。ほんとはセブンだからファミチキじゃなくてななチキなんだけど、おれらはずっとファミチキって呼んでる。どうでもいいけど。
外に出て、半分にちぎって渡した。一年のとき、部活帰りにいつもそうしてたから。二個買う金がなかったんじゃなくて、なんとなく半分がちょうどよかった。
健斗は受け取って、食べずに持ってた。
「スタメン、入った?」
「……入った」
「よかったじゃん」
本気で言ってるっぽかったのが、逆にきつかった。
「お前がいたら入ってないけどな」
言ってから、しまったと思った。健斗は笑った。久しぶりに見た、変な笑い方だった。鼻から息が抜けるやつ。
「それな」
それからしばらく、二人とも何もしゃべらなかった。店から出てきたおっさんが、ブロックに座ってるおれらをちらっと見て、軽トラで出ていった。
健斗は、ファミチキを少しずつ食べた。すげえゆっくり食べた。途中で「うま」って言った。
「バイト、何やってんの」
「親父の店。配達」
「店、大丈夫なの」
「わからん」
わからん、で終わった。おれはそれ以上聞けなかった。聞いてもどうにもできないから。
帰りぎわ、健斗が言った。
「次の試合いつ」
「再来週の土曜。市民体育館」
「ふーん」
来るとも来ないとも言わなかった。
再来週の土曜、おれは第二クォーターの途中で交代させられた。ベンチに戻るとき、二階の観客席の端っこに、黒いエプロンをしたやつが座ってるのが見えた。配達の途中で寄ったんだと思う。前半が終わったころには、もういなかった。
試合は負けた。帰りにセブンに寄ったけど、駐車場には誰もいなかった。
おれはファミチキを一個買って、半分食べて、残りの半分を持ったまま家まで歩いた。
読み終えて、どうでしたか