創作動物約2分

冬だけのボス

うちのボスは、冬しかおらん。

ボスいうても、うちの猫やないんよ。どこの子かも知らん。茶色と白のぶちで、顔がでかくて、しっぽが途中でくいっと曲がっとる。十一月のはじめごろになると、どっからともなく来て、勝手口の前でじーっと座っとるんです。

最初の年は追い払ったわ。うち、主人が猫あかんかったから。くしゃみが止まらんようになるの。

そしたら主人がな、「寒いやろ、あいつ」言うて、段ボールに古い毛布入れて勝手口の外に置いたんです。自分がくしゃみ出るくせに。

二年目には段ボールが発泡スチロールの箱になって、三年目には、なんでか知らんけど台所の中に入れとった。主人はマスクして、鼻の下を真っ赤にしながら、ボスにちくわをちぎってやってましたわ。一本八十八円のやつ。

「なんでボスなん」て聞いたら、「顔が、前の会社の部長に似とる」言うて。そんなん知らんがな。

ボスは春になると、おらんようになるんです。桜が咲くころ、ある朝ふっと。ほんで、また十一月に来る。どこで何しとんのか、誰も知らん。近所の奥さんらに聞いたら、二丁目の酒屋さんでは「たぬき」、公園の向こうの家では「おはぎ」て呼ばれとるらしいわ。みんな冬だけ面倒見とるんやて。

主人が亡くなったのは、去年の二月です。

入院しとるあいだ、ボスは台所で主人の座布団の上に寝とりました。病院から帰ってきた夜、座布団にボスの毛がようけついとって、私、それをガムテープで取りながら、なんやわからんけど一人で怒っとった。あんたのせいで主人のくしゃみが、て。関係ないのにね。

三月の終わりに、ボスはいつも通りおらんようになりました。

今年の十一月、私は勝手口の前に、主人が使うとった発泡スチロールの箱を出しました。毛布も洗って入れた。ちくわも買うてある。一本九十八円になっとった。十円上がっとる。

今日で十一月の九日です。

まだ来えへん。

酒屋の奥さんとこにも、まだやて。

年やもんね、あの子も。うちに来るようになってもう八年や。猫の八年いうたら、なんぼになるんやろ。

箱は、もうちょっと出しとこうと思います。ちくわは、賞味期限が来たら自分で食べます。

#大切な人に会いたくなる話 #眠れない夜に読む話

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