創作あしたの灯約2分

三日坊主を十回やった

一月四日に走り始めて、一月六日にやめた。

四十一歳、経理。体重は大学のころより十四キロ多い。会社の健康診断で「脂肪肝の疑い」に丸がついていて、それで走ることにした。ユニクロで黒いジャージを上下三千九百九十円で買った。

一日目は家から公園まで行って帰ってきた。一・八キロ。二日目も同じ。三日目は公園を一周して二・六キロ。四日目の朝は雨で、五日目は寝坊して、六日目にはもう走る理由を思い出せなかった。

二月の終わりに、ジャージをタンスの奥から出した。花粉がひどくて三日でやめた。

四月、新年度の空気に押されてまた走った。三日。

五月の連休。三日。

そのへんで、スマホのカレンダーに印をつけるようになった。走った日に赤い丸。見返すと、丸が三つずつ固まって、あいだに長い空白がある。団子を串に刺していないみたいな並び方だった。

最初は情けなかった。でも七月に四回目の三日坊主をしたあたりで、妙なことに気づいた。やめるのは毎回同じなのに、また始めるまでの空白がだんだん短くなっている。一回目のあとは七週間空いた。四回目のあとは十日だった。

もう一つある。三日目の距離が毎回少しずつ伸びていた。二・六キロ、二・九キロ、三・三キロ。途中で歩いてもいいことにしていたから、歩いたぶんも入っている。

妻に言ったら「それは三日坊主って言わないんじゃない」と言われた。何て言うのかと聞いたら、少し考えて「坊主の出入りが激しい寺」と言った。

十二月の半ば、十回目の三日坊主が終わった。

赤い丸を数えると三十個あった。去年はゼロだった。

健康診断の結果はまだ「脂肪肝の疑い」のままだ。体重は二キロしか減っていない。ジャージの膝は少し白っぽくなった。

一月四日にまた走った。今年は数え方を変えることにした。やめた回数ではなく、始めた回数を手帳の裏に書く。

一月四日、一回目。

今のところ二回目の予定はない。三日目が明日だからだ。

読み終えて、どうでしたか

保存する・アプリで読む LINEで送る

アプリでは、毎日新しい物語が届きます。

この話を読んだ人におすすめ

創作あしたの灯約2分

八十点で出す

企画書を三週間抱えていた。締め切りの朝、上司に「八十点でいいから出して」と言われた。

創作あしたの灯約2分

断る練習

病棟三年目の看護師。頼まれた夜勤の交代を、はじめて断った日の話。

創作あしたの灯約2分

一行日記の四年目

一日一行だけ書く日記。四年目に読み返したら、いちばん多かった言葉は「ねむい」だった。

創作あしたの灯約2分

歩くのが遅い人

新宿駅で、いつも人に追い抜かれる。ある朝、追い抜かれるのをやめてみた。

創作あしたの灯約2分

失敗ノート

洋食屋の二代目。父から店と一緒に受け継いだのは、レシピ帳ではなく、失敗ばかり書いたノートだった。

創作あしたの灯約2分

昼寝の許可

二歳と五歳の母。十五分だけ昼寝をすると決めた日曜日、家族は思ったより平気だった。