スピーチ原稿
ツレの森本から「友人代表のスピーチ頼むわ」とLINEが来たのは、式の二か月前やった。
なんでおれやねん、と思た。森本には大学の友達も会社の友達もおる。しゃべるのうまいやつなんかいくらでもおる。おれは高校の三年間、同じクラスで、同じ野球部で、ほんで補欠同士やっただけや。
「なんでおれやねん」と送った。
「お前しかおらんやろ」
「おるやろ」
「おらん」
三往復で負けた。
そこから二か月、原稿を書いた。ネットで「友人代表 スピーチ 例文」で調べたら、なんぼでも出てくる。「新郎の〇〇くんとは高校時代からの付き合いで」。その通りや。その通りやけど、おれが言うたら嘘くさい。
一回目の原稿は、例文をほぼそのまま写した。読み返して、破った。二回目は、野球部のことを書いた。夏の大会、ベンチで二人でスポーツドリンクの粉を溶かす係やったこと。森本が粉の量をまちがえて、監督に「なんやこの薄いの」と怒られたこと。書いてて自分で笑た。でも、これを新婦側の親戚の前で言うてええんか、わからんかった。
嫁に読んでもろた。
「おもろいけど、新婦のこと一行も出てけえへんやん」
そらそうや。新婦のこと、知らんもん。二回会うただけや。一回目はお好み焼き屋で、森本がキャベツをこぼしたのを、黙って拾うてた。それしか知らん。
それを書いた。
式の当日、ホテルの控え室で、原稿を三回読んだ。トイレで二回読んだ。手汗で紙がふにゃふにゃになった。司会の人に「ご準備よろしいですか」と言われて、立ったら、膝が変な音した。
マイクの前に立った。二百人くらいおった。ライトがまぶしい。原稿を開いた。
一行目が、読まれへんかった。手汗で、ボールペンの字がにじんどった。
「……えー」
えー、が会場に響いた。後ろのテーブルで、誰か咳した。
しゃあないから、原稿をたたんで、ポケットに入れた。
「森本とは、高校で、野球部でした。二人とも補欠でした」
笑いが起きた。起きたんが意外で、そこで一回止まってしもた。
そっからは、何しゃべったかよう覚えてへん。スポーツドリンクの話はした。薄かった話。新婦のお父さんが、そこで一番笑うてた。キャベツの話もした。新婦が、手で口押さえとった。
最後、何を言うて締めたらええかわからんようになって、
「森本は、ええやつです。薄いけど」
と言うて、頭下げた。拍手が来た。何の拍手かようわからんかった。
席に戻ったら、隣の、森本の会社の上司っぽい人が「ええスピーチやったね」と言うた。
「原稿、読まれへんかったんです」
「そうやろね」
その人は、にこにこしながら、ビール注いでくれた。
二次会で、森本が酔っぱらってこっちに来た。何か言いかけて、やめて、おれのポケットに手ぇ突っこんで、ふにゃふにゃの原稿を勝手に持っていった。
「返せや」
「おれのやろ、これ」
それから一回も返ってきてへん。
読み終えて、どうでしたか