垂木の束
資材館の朝は、木の匂いと結束機の音で始まる。
ホームセンターの資材館でパートをして九年になる。担当は木材のカットと、売り場の補充。二メートルの垂木を十本ずつ束ねて、PPバンドで二か所留め、ラックに立てる。開店の九時までに四十束。腰に湿布を貼る日が週に三日はある。
井出くんは四月に入った二十歳の子で、髪の右側だけが少し長い。最初の一か月は、カットの寸法を聞き返してばかりいた。九百十のところを九百一と聞いて、お客さんの棚板が全部一センチ短くなったこともある。
その井出くんが束ねる垂木が、きれいなのだ。
端がそろっている。木口を床にとんとんと二回落として、それから留める。バンドの位置は両端から三十センチずつ。留め金の向きが全部手前を向いているので、お客さんがカートに積むとき指を引っかけない。私の束は、留め金があっちこっちを向いている。九年そうしてきた。
きれいだな、と思ったのは六月だった。それから、思うたびに言わなかった。
言わなかった理由はいくつかある。私は主任でもないし、相手は男の子だし、言ったら言ったで何を偉そうにと思われそうだし。それに九年のあいだ、私の束を誰かがほめたことは一度もない。ほめられなくても束は売れる。
十月の最初の水曜日、雨で客の少ない午後だった。四時四十分、結束機の前で並んで垂木を束ねていたとき、隣で、とん、とん、と音がした。
「それ、きれいだよね」
口から出てから、自分の声の大きさにびっくりした。井出くんは手を止めてこっちを見た。
「え、何がですか」
「束。留め金がそろってて」
「ああ」
井出くんはバンドを引っぱって留めてから、少し考えた。
「YouTubeで見たんです。物流の人の動画で。手前に向けると、取る人が楽だって」
話はそこで終わった。うれしそうでも、てれた様子でもなかった。私は「へえ」と言い、自分の束に戻った。
ただ、そのあと井出くんは、私が切った合板の寸法を一回も聞き返さなかった。気のせいかもしれない。雨の日は耳がよく聞こえるという人もいる。
六時の休憩でスマホを出して、物流、束ね方、で調べた。動画は十四分あった。休憩は十五分だった。
次の日、開店前の四十束のうち、最初の一束だけ留め金を手前に向けた。二つ目の留め金を締めるとき、手首の角度が慣れなくて二回やり直した。三束目からは元に戻った。
あしたは五束やるつもりでいる。
読み終えて、どうでしたか