親子リレーまで十九日
9月25日
夕飯のとき、まゆが学校のお便りを出してきた。運動会は10月14日。プログラムの十一番が「親子リレー(希望者)」。
希望者のところに鉛筆で丸がしてあった。まゆがつけた丸だ。
妻は「わたし今年PTAの係だから」と言った。つまりおれだ。
最後に全力で走ったのがいつだったか考えた。高校二年の体育祭の騎馬戦。あれは走ったうちに入らない気がする。
9月26日
朝五時五十分に起きて、近所の公園の外周を走った。看板に一周四百メートルとある。
一周で止まった。
止まったというか足が止まった。ふくらはぎがつった。ベンチで足首をつかんでいたら、犬の散歩のおばあさんに「大丈夫?」と聞かれた。大丈夫です、と言った。大丈夫ではなかった。
9月27日
休み。ふくらはぎが痛い。
会社で後輩(二十六歳、元ソフトボール部)に相談したら「まず歩いたほうがいいっすよ」と言われた。走るために歩く。理屈はわかる。
9月29日
仕事帰りにスポーツデポに寄った。ランニングシューズ、六九八〇円。店員さんに「どれくらい走られますか」と聞かれて「百メートルです」と答えた。店員さんは一瞬止まってから「でしたらこちらで」と、さっきより安いのを出してきた。
高いほうを買った。
10月1日
歩いて一周、走って半周、歩いて一周。
まゆが「わたしも行く」と起きてきた。パジャマの上にジャンパーを着て、自転車のヘルメットをかぶっている。なんでヘルメットなのかは聞かなかった。
まゆはおれの横を走って、おれより速かった。
10月4日
一周、止まらずに走れた。タイムは測っていない。測るのがこわい。
後輩に報告したら「おお」と言ってくれた。「で、本番は何メートルなんすか」「百」「じゃあ一周の四分の一っすね」。そういう計算はしないでほしい。
10月7日
雨。家の廊下でもも上げをしたら、下の階の人に悪いと妻に止められた。
まゆとバトンの受け渡しの練習をした。バトンはラップの芯。まゆが「はい!」と差し出すのを、うしろ手で受け取る。三回落とした。おれが。
10月9日
朝の公園で、たぶん同じクラスのお父さんらしき人とすれ違った。上下とも本格的なウェアで、ふくらはぎに何か黒いものを巻いていた。
会釈した。向こうも会釈した。
速かった。
もっとも、ああいう人が出てくるのは最初からわかっていたことで、こっちが勝手に焦っているだけかもしれない。いや、焦っている。
10月12日
二周走れた。
まゆに「パパ、前より音がしない」と言われた。足音のことらしい。前はドスドスいっていたそうだ。早く言ってほしかった。
10月14日
本番。
親子リレーは子どもが五十メートル走って親にバトンを渡し、親が百メートル走る。まゆは二位でおれにバトンを渡した。受け取れた。落とさなかった。
三十メートルくらいのところで、九日に会ったお父さんに抜かれた。あの人も同じ組だった。そのあともう一人に抜かれた。
四組中四位。
転ばなかった。それは書いておく。
テントに戻ったら、まゆが「パパ、顔がこわかった」と言った。妻の撮った動画を見たら本当にこわかった。歯をむき出しにしていた。
10月15日
全身が痛い。階段を手すりにつかまって降りている。
夜、まゆが明日の朝も公園に行くのかと聞いてきた。運動会は終わったぞ、と言うと「知ってる」と言った。
六時に目覚ましをかけた。
読み終えて、どうでしたか