スタンプの送り方
ちょっとした話なんだけど、書いておきたくなったので。
先週、皮膚科の待合室にいた。水虫です。どうでもいいか。月曜の午前中で激混みで、受付で「一時間半くらいです」と言われた。
隣に座ってたおばあさんが、ずっとスマホとにらめっこしてた。らくらくホンじゃなくて、普通のiPhone。たぶん家族のお下がり。画面にヒビが入ってて、ケースは孫が選んだっぽいキラキラのやつ。
で、急にこっちを向いて、
「すみません、これ、どうやったら動物のが出るの」
と言われた。
動物のが、なに? と思ったら、LINEのスタンプのことだった。孫が「おばあちゃんにあげる」って、ウサギのスタンプをプレゼントしてくれたんだけど、使い方がわからない、と。
「送りたいんだけどね、いつもこの、ニコニコの顔しか出ないの」
絵文字だった。ニコニコの顔。
画面を見せてもらって、スタンプのボタンを教えた。入力欄の横の、あの顔のマーク。押したら、ウサギがずらっと出てきた。
「あら!」
声が大きくて、待合室の半分くらいがこっちを見た。
「どれ送る?」
「どれがいいかしら」
ここから長かった。ウサギは四十種類あった。おばあさんは一個ずつ長押しして、動くのを見て、「これは怒ってるの?」「これは何してるの?」と聞いてくる。ウサギが土下座してるやつ、ウサギがラーメン食べてるやつ、ウサギが「おつかれさまです」の札を持ってるやつ。おれも全部は知らない。「これはたぶん、寝てます」とか適当に答えてた。
十五分くらいかけて、おばあさんは、ウサギがハートを両手で抱えてるやつに決めた。
「これ、変じゃない? 孫、中学生の男の子なんだけど」
「……まあ、大丈夫じゃないですか」
大丈夫じゃない気もしたけど、言わなかった。
送信。
既読はすぐにはつかなかった。平日の昼だし、学校だし。おばあさんは画面をずっと見てた。
そのあいだに、おばあさんのほうが先に名前を呼ばれた。「ヨシダさーん」。立ち上がって、おれにスマホを見せて、「来たら教えてね」と言った。いや、あなたのスマホなんで、とツッコむ前に、診察室に入っていった。スマホは持っていった。
十分くらいして、戻ってきた。そのまま会計に行くのかと思ったら、わざわざこっちまで来た。
「来た」
見せてくれた。孫からの返信。
ウサギが、土下座してるスタンプだった。同じシリーズの。
「これ、どういう意味?」
「……たぶん、ありがとう的な、感じです。たぶん」
「そう」
おばあさんは、満足そうに画面を閉じて、会計に行った。帰りぎわ、おれに向かって、手に持ってたのど飴を一個くれた。はちみつきんかんのど飴。
おれの名前が呼ばれたのは、そのさらに四十分後だった。
のど飴は、診察室で先生と話しながらなめた。先生に「飴はちょっと」と言われた。
読み終えて、どうでしたか