返しに来たゲームソフト
弟が正月でもないのに急に実家に来た。三十四にもなって紙袋を一つぶら下げて。
「兄ちゃん、これ」
紙袋から出てきたのは、スーパーファミコンのソフトだった。ラベルが半分はがれて、裏にマジックで俺の名前が書いてある。小学生の字で。
「……おまえ、これ」
「借りてたやつ」
借りてたんじゃない。持っていかれたのだ。俺が小五で弟が小二のときだった。
弟は友達の家に「ちょっと貸す」と言って持っていき、それきり戻ってこなかった。友達の家でなくしたと弟は言い張り、俺は泣きながら弟を殴って、殴ったほうが悪いと母にこっぴどく叱られた。あれは納得いかなかった。二十三年たってもまだちょっと納得いってない。
「どこにあったんだよ」
「俺の部屋の、学習机の引き出しの裏。板の隙間に落ちてた」
「おまえの部屋にあったのかよ」
「あったみたい」
「みたい」じゃねえよ。
この前実家の机を処分しようとしてばらしたら出てきたらしい。見つけたとき一瞬捨てようかと思ったけど、裏に俺の名前が書いてあったからやめたと弟は言った。
「ほんとはあのとき、友達の家じゃなくて、自分の部屋でなくしたってわかってた。なんか言えなくなって」
「言えよ」
「七歳だよ」
「殴られ損だろ、俺」
「殴ったのは兄ちゃんだろ」
それから二人で押し入れの奥から本体を引っぱり出したが、電源を入れても画面が映らなくて、弟がカセットの端子にふーっと息を吹きかけた。昔みんなやってたやつだ。意味ないって後で知ったのに、やってしまう。
映った。セーブデータは全部消えていた。電池が切れていたんだろう。
「最初からかよ」
「最初からだな」
俺たちは二コンで最初から始めた。一面の途中で弟が穴に落ちた。二回落ちた。
「下手になったな」
「兄ちゃんもだろ」
台所から母が顔を出して「あんたたち、夕飯食べてくの」と言ったけれど、二人とも返事をしなかった。ボス戦だったので。
気がついたら夜十時で、弟はそのまま泊まっていくことになった。弟の部屋はもう物置になっていたので、俺の部屋に布団を二つ並べて敷いた。電気を消してしばらくして、弟が暗いなかで言った。
「兄ちゃん、あのときごめんな」
「もういいよ」と言いかけてやめた。
「七面までクリアしたら許す」
「無理だろ、あれ」
「じゃあ許さない」
弟は笑って、それからすぐ寝た。いびきがうるさいのは昔からだ。
読み終えて、どうでしたか