千円のショートケーキ
高二のとき、岡田に千円貸した。
岡田の家は金がなかった。昼休み、いつも水道の水を飲んでた。ある日の放課後、下駄箱のところで岡田が「千円、貸してくれん。絶対返す」と小声で言った。
おれは財布から千円札を出した。バイト代の残りだった。返ってくるとは思ってなかった。正直、ちょっと惜しかった。その週、欲しかったCDがあったので。
三年に上がる前に、岡田は学校をやめた。連絡先も知らないまま、それっきりになった。
二十年たった。
去年の秋、会社に封筒が届いた。差出人は岡田。どうやっておれの勤め先を調べたのかはわからない。たぶんフェイスブックだと思う。おれは使ってないけど、嫁が勝手におれの写真を載せてる。
封筒には、千円札が一枚と、便せんが入っていた。
「覚えてないかもしれません。二年のとき千円借りた岡田です。
あの千円で、妹の誕生日にケーキを買いました。母が入院していて、家に何もなくて、妹がずっと泣いていたので。駅前の不二家で、ショートケーキを一個。三百八十円でした。残りの六百二十円は、そのまま使ってしまいました。すみません。
いろいろあって、今はケーキ屋をやっています。
返すのが遅くなりました。利子の代わりに、同封のものを使ってください」
封筒の底に、名刺サイズの紙が入っていた。手書きで「ショートケーキ 一生無料」と書いてあった。ハンコまで押してあった。
次の休み、嫁と娘を連れて、その店に行った。隣の県の、国道沿いの小さい店だった。
ショーケースの真ん中に、ショートケーキが並んでいた。値札に「はじまりのショートケーキ 380円」と書いてあった。
レジの奥から、白いコック帽の男が出てきた。太っていた。高校のときはガリガリだったのに。
「……太ったな」
最初に出たのがそれだった。岡田は笑った。
「そっちこそ、ハゲたな」
ハゲてない。おでこが広いだけだ。
おれは無料券を出した。岡田は「一個な」と言って、ショートケーキを一個、箱に入れた。
「三人来てるんだけど」
「一個って書いただろ。二個は四百円」
「値段違うじゃん」
「二個目からは普通のだから」
結局、嫁と娘の分は払った。八百円だった。帰りの車で、娘が「お父さんの友達、けちだね」と言った。
ショートケーキは、普通にうまかった。
読み終えて、どうでしたか