ムギの はこ
みおの いえの ねこ、ムギは、はこが 大すきです。
その はこは、おとうさんの あたらしい くつが はいって いた、ちゃいろの はこでした。ムギが まるく なると、ちょうど はこ いっぱい。しっぽの さきだけが、ふちから ちょろんと はみ出します。
ムギは あさも、ひるも、よるも、その はこで ねて いました。
ある 日、おかあさんが いいました。
「その はこ、そろそろ すてようか。あしたは かみの ごみの 日だから」
みおは びっくりしました。
「だめ。ムギの おうちだもん」
「でも、かどが つぶれて、もう へにゃへにゃよ」
ほんとうでした。はこの かどは つぶれて、よこには ムギの つめの あとが いっぱい ついて いました。
「じゃあ、みおが あたらしい おうちを 見つけて あげる」
みおは さがしに いきました。ムギは はこの 中から、かた目だけ あけて 見て いました。
ひとつめは、せんたくかご。
おふろばの まえに ある、白い かごです。ふわふわの タオルを しいて あげました。タオルは おひさまの においが しました。
「ムギ、どうぞ」
ムギは かごの ふちに まえあしを かけて、くんくん かぎました。それから、かごの あみめに ひげを つっこんで、ぷいっと かおを そむけて、はこに もどって いきました。
「すけすけで、おちつかないのかな」
ふたつめは、ぼうしの はこ。
おかあさんが けっこんしきに かぶって いった ぼうしの、まるい はこです。ふたを あけると、ちょっと むかしの においが しました。
「ムギ、どうぞ。まるいよ。かどが ないよ」
ムギは まるい はこの 中に、すとん と はいりました。
「やった」
みおは 手を たたきました。
ところが ムギは、はこの 中で くるっと 一かい まわって、もう 一かい まわって、三かい まわって、それから すとん と 出て きました。まるい はこでは、どこが すみっこか わからなかったのです。
「おかあさん、ぼうしの はこ、だめだった」
「あら そう。ぼうし、まだ 中に はいって たのに」
ぼうしは ムギの けで、ちょっぴり ちゃいろく なって いました。
みっつめは、となりの シロの いえ。
みおは さくの すきまから、となりの にわを のぞきました。いぬの シロの 小やは、木で できた、とんがり やねの 小やです。
「シロ、ちょっと かして くれる?」
シロは 小やの 中で ねそべった まま、おもそうに しっぽを ぱたん と ふりました。いいよ、という ことに しました。
みおは ムギを だっこして、さくの すきまを からだを よこに して ぎゅっと とおりました。この まえの よるに、ムギと いっしょに とおった すきまです。
小やの 中は、わらの においと シロの においが しました。あったかくて、くらくて、ちょうど いい ひろさです。
ムギを そっと おろすと、ムギは シロの おなかの よこに まるく なりました。
「ここが いいの?」
ムギは 目を つぶりました。シロも 目を つぶりました。
みおは ほっと しました。でも、それから こまりました。シロの いえは、シロの いえなのです。ムギが ここに すんだら、みおの いえには ムギが いなく なって しまいます。
「ムギ、やっぱり かえろう」
ムギは 目を あけて、ぐうーんと のびを して、すたすたと さくの すきまを ぬけて いきました。みおより ずっと じょうずに。
いえに かえると、ムギは まっすぐ、あの へにゃへにゃの はこに はいりました。つぶれた かどに あごを のせて、ふうっと はなから いきを はきました。
「やっぱり これが いいんだね」
その よる。
おかあさんは、つぎの 日の ごみの したくを して いました。しんぶんと、ざっしと、ぎゅうにゅうの パックを ひもで しばって、げんかんに ならべます。
みおは どきどきしながら 見て いました。はこが いつ もって いかれるか、ずっと 見て いました。
おかあさんは しんぶんを しばって、ざっしを しばって、ふわあ と 大きな あくびを しました。
「あら、もう こんな じかん。みお、はやく ねなさい」
そう いって、おかあさんは はこの ことを すっかり わすれて、おふろに はいって しまいました。
みおは そうっと はこを もちあげました。中で ムギが「にゃ」と ひとこえ いいましたが、おとなしく して いました。
はこを、みおの へやの ベッドの よこに おきました。
「ここなら、だれにも すてられないよ」
ムギは はこの 中で まるく なりました。しっぽの さきが、ふちから ちょろんと はみ出しました。
みおも ベッドの 中で まるく なりました。
へやの でんきを けすと、まどの そとで、シロが 一かい だけ「わふ」と いいました。
つぎの あさ。ごみの 日の あさです。
おかあさんは しんぶんの たばを もって、げんかんで くびを かしげて いました。
「なにか ひとつ わすれてる きが するのよね。……まあ いいか」
みおは しらない ふりを しました。ムギも、はこの 中で しらない ふりを しました。
はこの ふちから、しっぽの さきが ちょろんと 出て いました。
読み終えて、どうでしたか