南極に残された犬たち
一九五八年二月、南極・昭和基地。
日本初の南極観測隊は、一年間の越冬を終え、第二次越冬隊と交代するはずだった。しかし、その年の南極は例年にない悪天候に見舞われた。観測船「宗谷」は厚い氷に阻まれ、基地に近づくことができなかった。
第一次越冬隊員は、なんとか小型飛行機で基地から救出された。しかし、第二次越冬隊の上陸は断念された。
基地には、犬ぞりを引いていた樺太犬が十五頭残されていた。
犬たちは、次の隊がすぐに来ると考えられていたため、首輪と鎖でつながれたままだった。隊員たちは、犬たちを連れ帰ることも、鎖を解きに戻ることもできなかった。
南極の冬を、食料もなく、鎖につながれたまま越せるはずがない。誰もがそう思った。犬を置き去りにしたことは、日本中で大きな批判を浴び、隊員たちは深い苦しみを抱え続けた。
一年後の一九五九年一月。第三次観測隊が、ヘリコプターで昭和基地に向かった。
基地の近くに、二つの黒い影が動いていた。
犬だった。二頭の犬が、雪原を駆けていた。
隊員の一人に、第一次越冬隊で犬係を務めた北村泰一さんがいた。北村さんは、近づいてきた二頭の名を、一頭ずつ呼んだ。
呼ばれた名前に、二頭は反応した。
タロとジロ。兄弟の樺太犬だった。
二頭は、鎖から抜け出し、南極の冬を生き延びていたのだ。どうやって生き延びたのか、はっきりしたことはわかっていない。アザラシやペンギンを捕まえて食べていたのではないかと考えられている。
残る十三頭のうち、多くは鎖につながれたまま命を落としていた。行方がわからない犬もいた。
タロとジロの生存は、日本中に大きな喜びをもたらした。
ジロは南極で越冬中に病気で死んだ。タロは日本に帰り、北海道大学の植物園で余生を過ごした。
今も、タロとジロの剥製は国内の博物館に保存され、訪れる人々にこの物語を伝えている。
※史実をもとに再構成しています。
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