長編『返事は、港で』 第12章
三十歳 ― 返事は、港で
No.67
拓海へ
二年、返事を書けなくて、ごめん。
言い訳を先に書きます。長いです。
No.66 を読んだ次の週、会社を辞めた。辞めて、島に帰った。拓海の手紙を読んだから辞めたんじゃない。その前から決めてた。たぶん。決めてたことにしてる。
民宿は、閉めなかった。わたしが継いだ。
一年目は、全然だめだった。お客さんが来ない。来ても、わたしの朝ごはんに文句を言う。卵焼きが「スクランブルエッグ?」って言われた。中学のときと同じこと言われた。
No.23 を引き出しから出して、読み直した。三回に分けて巻く。
二年目は、少しましになった。ネットに口コミが書かれた。「朝ごはんの卵焼きがおいしい」。泣いた。卵焼きで。
それで、返事のこと。
No.66 を、二年、民宿の帳場の引き出しに入れてた。毎朝、開けて、読んで、閉めた。
返事を書こうとして、書けなかった。
なんて書いたらいいか、わからなかったんじゃない。書いたら、手紙が終わる気がした。拓海が、No.42 で言ってたみたいに。
でも、終わってもいいと思えるようになった。二年かかった。
ここからが、返事です。
来年の夏、民宿の台所を貸します。
十席くらいの食堂にできる。広さは、測った。親子丼と、鶏飯を出してほしい。お客さんの朝ごはんも、たまに手伝ってほしい。わたしの卵焼きは、まだ、たまにスクランブルエッグになるので。
家賃は、もらいます。安くします。
ルールの一は、なくします。二と三は、どうでもいいです。
返事は、手紙じゃなくていい。
港で。
遥
追伸
消しゴム、返しに来て。
読み終えて、どうでしたか