長編『返事は、港で』 第11章
二十八歳 ― No.66
No.65
拓海へ
おばあちゃんの民宿、閉めることになりそう。
おばあちゃんが死んでから、お母さんと叔父さんが交代で細々やってたけど、叔父さんが腰を悪くした。お母さんには横浜の仕事がある。売るか閉めるか。
わたしに「継ぐ気はないか」とお母さんに聞かれた。電話で。わからない、と答えた。
会社はまだ続けてる。前よりは少しましになって、本を一冊作らせてもらえることになった。売れなさそうなやつ。詩集。
でも、島の朝の海を最近よく思い出す。No.20 で送った写真。朝六時の。
拓海ならどうする。
遥
*
No.66
遥へ
これは今まで書いた手紙の中で、一番書き直した手紙です。十四回書き直した。
どうするかは遥が決めることだから、おれは何も言えない。言えないけど、言わないとたぶん一生言わないので、書く。
おれは遥が好きです。
たぶん小学生のとき、消しゴムを返さなかったときから。
(消しゴムはまだ持ってる。No.1 のとき、返したほうがいいかって聞いたやつ。ずっと筆箱に入ってて、角が全部なくなって丸くなってる)
中学のとき、宮里先輩のことばっかり書いてあって腹が立ったのは、そういうことだったと思う。二十歳のとき「おめでとう」を三回書いて消したのも、そういうことだと思う。島の葬式に行ったのも、鶏飯を作りに行ったんじゃない。うそついた。
返事はいらない。
ルールの二と三はそのままで、ルールの一は遥が決めていい。
もし島に帰るなら。
おれの店はどこでやってもいい。十席くらいの。親子丼と鶏飯を出す。
これは手紙だから、読まなかったことにしてもいい。
拓海
*
(ここから二年、手紙はない)
読み終えて、どうでしたか