モカのお葬式
娘が五歳のとき、ハムスターのモカが死んだ。
二年生きた。ハムスターとしては長生きなほうだと、ペットショップの人は言っていた。朝ケージの中で動かなくなっているのを、最初に見つけたのは娘だった。
「モカ、ねてる?」
「死んだ」と言うかどうか、一瞬迷った。五歳に。
「モカはね、もう起きないの。死んじゃったんだよ」
娘はしばらくケージの前でじっとしていた。泣くかと思ったら泣かなかった。それから言った。
「おそうしき、する」
娘は自分の上履きの箱をお棺にした。去年の、サイズが合わなくなったやつの箱だ。ティッシュを敷いてモカを寝かせ、ひまわりの種を三つ入れた。画用紙にはモカの絵を描いた。茶色い丸に目が二つ。耳が三つあった。
庭のプランターの横に、娘がスコップで穴を掘った。浅かったので私がこっそり深くした。
娘はアイスの棒にマジックで「モカ」と書いて立てた。「カ」が「力」みたいになっていた。それから手を合わせて、長いこと何かぶつぶつ言っていた。
「なにをお話ししたの」
「ありがとうって。あと、ごめんねって」
「ごめんね?」
「おとといね、おみず、かえるのわすれた。モカ、のどかわいてたかもしれない」
私は娘を抱きしめた。娘はそこで初めて声をあげて、わんわんやった。鼻水が私の肩についた。
その夜、布団の中で娘が聞いた。
「ママ、モカのおかお、わすれたらどうしよう」
「忘れないよ」
「でも、ばあばが、ひいばあばのおかお、もうおもいだせないっていってた」
ばあば、余計なことを。
私は少し考えてから「絵、描いたじゃん」と言った。娘は耳が三つのモカの絵を思い出したらしく、「あれ、にてない」と言った。
「にてないの?」
「みみ、ふたつだった」
「じゃあ、明日描き直そうか」
娘は「うん」と言って、すぐ寝た。
次の日、娘は絵を描き直した。耳は二つになった。今度はしっぽが長すぎた。ハムスターにしっぽはほとんどない。私は黙っていた。
娘は今十五歳で、獣医になりたいと言っている。理由を聞いたら、そっぽを向いて「べつに」と言った。
読み終えて、どうでしたか