連載『閉店まで、あと十日』 第7回
四日前 ― 投稿
【四日前 夜 日記】
やった。やってしまった。
夜の十一時に、インスタとXにウィンドウの写真を上げた。外から撮ったやつ。一日目に撮った、ガラスにあたしが映りこんでるやつじゃなくて、昨日こっそり撮り直したほうだ。反射が入らないように黒い布を持っていって、ガラスにくっつけて撮った。
キャプションはこう。
「群馬の商店街の写真館に、五十五年飾られている写真です。お店は十月六日で閉店します。この方をご存知の方はいませんか。昭和四十六年五月に撮影されたものです」
書いてから三十分くらい、投稿ボタンを押せなかった。勝手に載せていいわけない。肖像権とか。店主にも言ってないし、撮るなって言われてる。全部わかってる。でも八百屋のおじさんの「取りに来るかもしれんから」が、ずっと頭から離れなかった。
五十五年待って、あと四日で閉まる。閉まったらあの写真はどこに行くんだろう。じいさんの家の押し入れかもしれない。燃えるごみかもしれない。
押した。
【同じ日 深夜一時】
いいね十二。ほとんど部の子とクラスの子で、一年の子からは「先輩これ例のやつ?」ってDMが来た。寝れない。
【三日前 朝七時】
いいね三百四十、リポスト百二十。
知らない人のコメントがいっぱいついてる。「素敵な写真」「昭和の美人」「泣ける」「こういうの好き」。「肖像権大丈夫?」ってコメントも三つあった。大丈夫じゃない。誰もこの人を知らない。
【三日前 昼休み】
いいね二千百。地元の、登録者数千人くらいのニュース系アカウントが引用してた。「【拡散希望】」って勝手につけられてたけど、拡散希望なんてあたしは書いてない。
【三日前 放課後】
写真館に行った。じいさんはカウンターにいて、スマホを持ってた。じいさんがスマホを持ってるのを初めて見たと思ったら、それは八百屋のおじさんのスマホで、画面にはあたしの投稿が映ってた。
「これは、おまえか」
「……はい」
じいさんがスマホをカウンターに置いたので、怒鳴られると思った。怒鳴られなかった。
「撮るなと言った」
「すみません」
「消せ」
「……はい」
あたしはじいさんの目の前で、その場で消した。削除しました、と画面に出た。じいさんはそれを確認してから奥に引っこんだ。
帰れとも言われなかったし、いていいとも言われなかった。あたしはしばらくソファに座ってて、それからネガの段ボールの続きを黙ってやった。
六時にじいさんが奥から出てきて、湯のみを二つ置いた。お茶菓子は柿だった。八百屋のおじさんのやつだと思う。皮がむいてあって、そのむき方がものすごくへただった。
【三日前 夜十一時】
投稿は消した。でもスクショで回ってるのがまだある。消えない。インターネットは消えない。
DMが一件来てた。知らないアカウントで、アイコンはひまわりの写真。開けるのがこわくて、まだ開けてない。
読み終えて、どうでしたか